フェイデンハウス物語 第一話七章

7.突然のメッセージ

カエル女は鏡を丁寧に拭き続け、その表面に少しずつ輝きを取り戻していた。私は彼女がそろそろ鏡を拭き終えることに気づき、数百年ぶりにメッセージを伝えられるチャンスが訪れることに焦りを感じていた。しかし、伝えるべき内容がすぐに浮かばない。しかも、相手は人間ではなくカエル。言葉選びひとつで、この新しい住人たちにどう受け取られるかが決まる。私はその責任の重さに緊張していた。

 とうとう、カエル女が最後のひと拭きを終え、鏡がかつての輝きを取り戻した。彼女は、きれいになった鏡に映る自分の姿をじっと見つめていた。その瞬間、私は反射的にメッセージを送ってしまった。

 鏡に浮かび上がったのは、不気味に光り輝く文字。「きれいにしてくれて、ありがとう」。文字は鏡面に浮かび、ゆっくりと揺らめきながら輝いていた。カエル女は、その異様な光景に目を見開き、体が硬直した。そして、「ぎゃー!!」と叫び声を上げた瞬間、彼女は後ろにのけぞり、激しい恐怖に襲われて背中から床に倒れ込んだ。その衝撃でさらに怯え、震えが止まらない。鏡の文字はなおも淡々と輝き続け、まるで彼女を嘲笑うかのようだった。

 私はその瞬間、深い後悔の念に襲われた。数百年ぶりのメッセージが、こんなにきれいに掃除してくれた彼女に恐怖を与える結果になるとは…。頭を打っていなければいいが…。

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