2.井戸の影
翌朝、アオイは館の中に入っていった。グロッグは「誰か探しに行ってくるよ」と告げ、気ままに庭園を散策していた。ひんやりとした気温の中、どこか不気味な静けさが漂っていた。
しばらく歩くと、古びた井戸が視界に入った。そのそばに、何かが立っている。ぼんやりとした影が霧の中で揺らめいていた。
「なんだ…?」
グロッグは思わず足を止めた。遠目には人影に見えたが、その姿ははっきりしない。冷たい風が背中を押すように吹き抜け、鳥肌が立った。
「ちょっと待てよ…あれ、誰だ…?」
好奇心と不安が入り混じり、グロッグはその影に近づいていった。目の前に現れたのは、灰色がかった肌を持つメイド姿の女性だった。無表情のまま、彼女は井戸のそばに落ちている洗濯樽を見つめ、じっと立っている。
「ちょ、ちょっと待てよ…なんだこれ…」
グロッグの胸に冷たい汗が滲む。彼女の様子はあまりにも異様で、生気が全く感じられなかった。目には感情の欠片もなく、まるで死人のようだ。自然と彼の足は後退してしまった。
「え…生きているの…か?」
声はかすれ、震えが混じっていた。彼の本能は危険を察知し、恐怖が全身に広がる。すると、その無機質な目がゆっくりとグロッグの方を向いた。
「うわっ…!」
突然の動きに、彼は思わず後ずさった。心臓が早鐘のように打ち始め、恐怖がじわじわと全身を襲う。だが、彼女は何もしてこない。無表情で立ち尽くしているだけだった。
「…何もしてこないのか?」
グロッグは少し安堵し、彼女が自分に危害を加える様子はないと確認した。息をつき、少し冷静さを取り戻す。
「こんなところにいても仕方ないし…と、とりあえず館の中に行こうか…」 彼は震える声で提案し、ゆっくりと屋敷の方へ後退し始めた。彼女は無言のまま、足音も立てずにグロッグの後をついてくる。再び冷や汗に包まれながらも、彼は彼女を館へと導くことを決意した。
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